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絵師と彫師、摺師

 Akiko Kubo

横浜のそごう美術で開催している「ウィリアム・モリスと英国の壁紙展 ― 美しい生活をもとめて」を見てきました。

モリスといえば、自然の草花をモチーフにした美しい図案。自然への愛を感じるのと、過剰に華美ではないところが大好きです。今でもモリスの図柄の壁紙は販売されていますが、19世紀のデザインが現在でも愛され、実用されているのはすごいことですよね。昨年は、H&Mからウィリアム・モリスの柄のお洋服が出たりしてたし。モリスの壁紙を販売しているサンダーソン社がプロモーションに積極的なのかな?

私がモリスを知ったのは壁紙のデザインからですが、そのデザインが実際どうやって壁紙になるのか、今まで想像したことがありませんでした。

会場では、印刷された図案はもちろん、版木や、実際に摺る映像を見られました。この摺る工程の映像がよかったので、あとで探したらYouTube にありました。19世紀からの版木を使って印刷する様子です。壁紙の版木ってかなり大きくて、とても重そうなので、どうやって印刷するのかな?かなりの力仕事?と疑問でしたが、映像を見て作り方がよくわかりました。これです↓

1ロール完成するまでに1ヶ月もかかるらしい!すごい…

モリスは図案を作るデザイナーで、それを壁紙にするなら、版木を作る彫り師、紙に摺る摺師がいたということですね。壁紙ですから、パターンを1ロールぶん、切れ目なく摺らなくてはいけないわけで、摺る技術はかなりの腕が必要に違いありません。

展示では、刷り上がったものに対してモリスが修正指示するメモがありました。その指示がけっこう細かくて、「もっと色を冷たく」みたいなわりと感覚的な記述もあり、摺師さん大変だよね…なんて思いましたが、モリスは19世紀に産業革命からの大量生産に疑問を呈し、職人の価値を重んじてアーツアンドクラフツ運動を起こした人。お互い尊敬しあって仕事していたのだと思います。

摺師さんへの指示といえば、日本の小原古邨の版画を見た時も、同じような指示の痕跡を見かけました。小原古邨の絵を、彫り師と摺師が版画に仕上げるわけですが、ここ削る、この色はもっとこう、などなど小原古邨もモリスと同じように細かく指示。自分の作品ですから、細かくて当たり前ですが、彫り師も摺師もけっこう大変そうなのに、後世に名が残るのはいつだってデザイナーなんですよね。

もはや名前はわからないけれど、モリスのデザインを実際のかたちにする人たちがいたからこそ、素晴らしい作品が生み出されたことを再認識。これって私たちの仕事にも言えることで、デザインする人、それをHTMLにする人、プログラムを組む人、などなど、複数の人の手によってwebサイトは作られています。完成したサイトのオモテには現れないことにも、地味に手間がかかって、粛々と頑張ってくれる人がいるあたり、デジタルといえども同じかなぁ、なんて思うところです。

そごう美術館の展覧会ページはこちら

https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/archives/19/william_morris/